結論:「おもてなし」に対する考えを改めるべき
今回は、東京オリンピック招致時、滝川クリステルさんのスピーチ以来一種の流行になった「おもてなし」について紹介します。
今回は以下のポイントを紹介します。
・実際の「おもてなし」とは何なのか?
・日本人の「おもてなし」と外国人観光客から見た「おもてなし」の違いとは?
目次
そもそも「おもてなし」とは?
東京オリンピックの招致スピーチ以来世界にも知られるようになった「おもてなし」
実際、どんな意味を持つ言葉で、どんな日本文化を含むのか。
「おもてなし」は、
「モノを持って成し遂げる」「表なし」という言葉が語源で、裏表のない心でお客様へ接し、目配り・気配り・心配りでお客様の満足度と感動を引き出すこと
と考えられています。
「茶道」に通ずる「おもてなし」
最上級の心遣いと位置付けられる「おもてなし」は、
日本人ならではのお客様や相手方に対する心遣いで、茶道の精神に通ずるものがあります。
茶器や動作、床の間の飾りなど一つ取っても、お客様のことを思い、丁寧に準備した「おもてなし」側の心遣いを感じる一方、もてなす側はその努力や主張をせず、余計な気遣いを遣わせないことが日本的な「おもてなし」の精神で美徳となっています。
参考:おもてなし道大学
「おもてなし」は間違い!?
そんな日本人の精神である「おもてなし」ですが、インバウンドや観光分野においてはほぼ間違いと言っても良いでしょう。「間違い」という言い方は強いかもしれませんが、ビジネス上そして観光立国としての施策としては不適切かもしれません。
間違い1:日本人の観点である「おもてなし」
間違い2:画一的な「おもてなし」産業
間違い3:「おもてなし」というボランティア精神
間違い1:日本人の観点である「おもてなし」
上記に見たように「おもてなし」とは、お客様や相手方に対して目に見えない部分まで心遣いし誠心誠意に応対することです。
しかし、
観光業や宿泊業における外国人観光客の増加やインバウンド需要にあっては、
このような日本的な「おもてなし」の心は間違い
むしろ受け入れづらいです。
日本人だから分かること
相手を気遣い些細な所まで準備することが美徳される「おもてなし」ですが、
・外国人やインバウンド観光客のそれぞれ異なるニーズに、そのニーズを聞かないうちに準備が出来るのか?
・文化や価値観が異なるお客様に何も聞かず、日本人に合った「おもてなし」を行うことが、外国人やインバウンド客にとって心地良いものなのでしょうか?
日本人には日本人の、外国人それぞれの国にはそれぞれの文化や価値観があり、日本流の「おもてなし」が必ずしもその外国の人々に通ずるかは疑問です。
これは一方で、外国人に対する「日本流」の「おもてなし」の強要ということも出来ます。
「外国人ならこうやるだろう」「箸は使えないだろう」「メニューは英語なら大丈夫だろう」
などと日本人の観点から先に先に考える「おもてなし」は、外国人や観光客にとって不愉快です。
また、「郷に入っては郷に従え」という言葉から分かるように、外国人に日本流の「おもてなし」をして「どうだ、素晴らしい」だろうと思うのは、相手のニーズに則していないとも言えます。
データが示す「おもてなし」の間違い
旅行情報サイト「トリップアドバイザー」が行った欧米豪の観光客口コミを基に集計した調査「インバウンドレポート2020」があります。
・日本の宿泊施設の評価:12~14位/アジア15ヵ国中
・「スタッフ」に対する評価:14.5% / 「サービス」に対する評価:9.4%
日本の宿泊施設に対する欧米豪の口コミ評価平均点は、アジア15ヵ国の中で12~14位と低く、アジア各国よりも欧米豪からの口コミが少ないことがわかります。
また、日本が推す「おもてなし」については、「スタッフ(日本:14.5%、アジア:30.3%)」「サービス(日本:9.4%、アジア:15.0%)」という結果になり、
もし「おもてなし」が世界で受け入れられているなら、欧米豪の旅行者も増え、評価も高まるはすですが、日本人が思うほど海外の人は「おもてなし」を評価していない
といことが分かります。
参考:訪日ラボ
間違い2:画一的な「おもてなし」産業
日本の宿泊業や飲食業などの「おもてなし」には、このような特徴があります。
画一的でマニュアルのないサービスや要求には答えられないという特徴
これは、様々な観光ニーズが広がる日本人観光客にとっても「おもてなし」の間違いと言えるでしょう。これでは、各々のニーズに合った「おもてなし」が出来ない上に、リピーターやロイヤリティの形成に繋がりません。
日本人にしても、ちょっとイレギュラーな要求をしたが受け入れられなかったことは頻繁にあり不満に思うこともありますが、まだ我慢できます。
しかし、遠くから「観光」をしに来る外国人観光客にとっては、お金を出してまで行きたい国ではないと思われてしまい、結局の所「おもてなし」の押し付けと捉えられる可能性もあります。
また、日本人客にとっての最適で効率化を目指した「おもてなし」は、
外国人から見ると逆で融通の利かない(⇔効率化)
お客様を思っていない(⇔日本人だけに最適)サービス
だと思われます。
間違い3:「おもてなし」というボランティア精神
「おもてなし」はその性質上、ビジネス的に成立しづらい概念です。
というのも、「おもてなし」はお客様や相手を重んじて先んじて準備をするというものですが、それはボランティア的要素もあり、加えてそれに対する対価を要求することは良しとされていません。
欧米や外国では「質の良いサービスやモノには、それ相応の対価を払うべき」という考え方があり、日本も観光立国として日本にお金を落とすようにする仕組みや仕掛けを作るには、「おもてなし」に対するそれ相応の対価を求めることも重要です。
「おもてなし」サービスの向上につながる
日本の宿泊業において、人手不足は深刻な課題で、年々効率化が重視されています。それに、伴い「間違い2」で見た、日本流「おもてなし」の画一的な押し付けが発生しています。
このような状況において、宿泊業は「おもてなし」に対する価値をビジネスにおいて適用し、それ相応のお金を落としてもらうことが重要です。それにより、賃金の上昇、雇用の増加及びサービスの向上に繋がります。
今後は、価格が高くなっても「お客様(市場)」の声を聴いて、そのニーズに則した対応を行うと共に、それ相応の対価を求めることも重要になってくるのではないでしょうか。それにより、リピーターやロイヤリティの向上、価値観の異なるお客様一人ひとりに向き合った「おもてなし」が出来るでしょう。
まとめ:「おもてなし」は、高付加価値である。
今回は、日本流の「おもてなし」について焦点を当てて、「おもてなし」のビジネス/観光分野における間違いを紹介させて頂きました。
最後に、
そもそもの「おもてなし」は、付加価値的存在であり、全面的に日本の魅力として発信しては元も子もないのです。
「価値観の異なるお客様や相手に気を遣わせず、相手に親身になって寄り添い応対する」
それにはこちら側(日本人)の思いや想像だけでなく、相手(外国人/観光客/お客様)のニーズをしっかりと聞き、その要求の上を行く高付加価値を提供することが本当の「おもてなし」なのではないでしょうか?
参考:『新・観光立国論』(デービット・アトキンソン)